サニーブライアン
彼との出会いは競馬ブックであった。競馬ブックの新馬紹介コーナーに彼が出ていた。クリスザブレイヴという馬を覚えているだろうか。当時まだ現役だったノーザンテーストの子供で仕上がりが早そうなクリスザブレイヴに対してサニーブライアンは血統的には距離が長くなってからかな、という感じはしていた。両馬は確か百日草特別でぶつかりクリスザブレイヴが勝って、サニーブライアンは5着だったと思う。時計の早い府中での競馬ではちょっと足りなかったかな・・・。と残念に思っていた。その年はクリスザブレイヴが朝日杯で1人になりながらご存知骨折のため大敗。混戦と言われていた世代だった。
その後、サニーブライアンは中山の当時2000mだったジュニアカップに駒を進めた。500万で上位入選を繰り返していた当時は本当にもどかしかった。が、その時にさほど強くはないメンバーだったものの確か、勝った。その時は新馬から注目していた馬が、これでクラシックに乗れるなという期待感はあったがその後、弥生賞の時にはやはり敗退し、やはり弱いメンバー相手のものだったのかなという思いも出てきてしまっていた。
皐月賞当日、大外枠。人気はメジロブライト。当時のメジロブライトは線が細く、もまれたらどうなるのかなという不安があった。しかも後方から来る馬だったので不安はなおさら。特に傑出した馬が不在の年だった。パドックを見てやはりメジロブライトの線は細い。本当に私はこの馬でいいのか迷っていた。しかし、好調ではあるという感触を得ていたし、調教の動きなどを加味してみるとやはり総合的にはメジロブライトという結論に達してしまう。
私はどうしても完成しきっていない体のこの馬から発する不安オーラを予想に結び付けたくて仕方がなかった。
弱点を見つけよう、そして不利な材料があればそれを逆手にとる馬が穴馬になる!!
と、私は思った。
それからの時間は物凄く長く感じた。何か1年分のエネルギーを集中していると言った感じだった。周りの雑踏など全く気にならない。
何か何か・・・。当時の私はまだそれを思いつくのに時間がかかった。
逃げ馬!!
メジロブライトは追い込み一手なのだ。この多頭数であの細い体で・・・。
もうひとつ気が付いた。そういえば仮柵は外れてグリーンベルトが存在していた。みなあの狭いグリーンベルトに殺到するに違いない・・・。そうなると追い込み馬はこの多頭数で馬場の悪い大外か、包まれる可能性大で内に突っ込むか・・・逃げるのは・・・。サニーブライアン!!この馬1頭が何が何でも逃げ宣言をしていた。単騎でいける!!大外枠。いや人気馬が後ろなら固まるぞこれは・・・。加えてこの馬が時計の掛かる馬場のほうが力を発揮できる馬であるということ、このコースのOPで勝っていることを思い出した。
もう私は穴予想で行くことに決めた。この馬と出会ったのが早い時期だったことも私は何かの因縁だと決め込んだ。前々で勝負できる馬を探した。若葉S組のシルクライトニングが前々で競馬ができるとあって、比較的穴人気的な評価を得ていた。
この組み合わせも私は購入した。
スタートゲートが開き、大外から予告どおりサニーブライアンと大西ジョッキーは内に切れ込んでくる
よしいったぁ!!
私はもう勝利が確定したかのように叫んでいた。予想通り誰も邪魔をするものはいない。差はそれほどでもなく、比較的引き付けている。しかし、ペースは速くない。3コーナー。まだ馬群は後方のメジロブライトを意識して動かない。動かない。動かない。徐々に差が開く。でも誰も追いかけない。誰も超人気薄の逃げ馬追いかけるか?そのうちタレるやろ。そう思い込んでいるようだった。くるんじゃねぇくるんじゃねぇ。私も大西も同じ気持ちだったかもしれない。
3~4コーナー中間点でようやく馬群は動き始めたが後ろの馬との手ごたえを比べるといかにもサニーブライアンは気分よさそうに走っている。馬群との差は・・・詰まらない。詰まらない。詰まっていない!!!!!!!
それを見た時。
私はある種の恐怖を感じたものだ。震えた。何もかも上手くいっている。いつもウダウダクドクドダメオヤジの俺でもたまには上手くいくんじゃぁ!!!!!!!!!!!!!!
連呼。。。
場内一瞬引く。。。
4コーナー。サニーブライアンのリードは5馬身~6馬身。
それからの私は覚えていない。多分 そのまま~とかいけ~やれ~を繰り返していたような気がする。
3~4コーナー中間点から叫び始めて、直線ではそのまま~をヅ~っと繰り返す。もう場内からは奇声とも罵倒ともつかぬとんでもない騒ぎになっている。何しろ10何番人気かの重賞勝った事もない無名の馬がクラシックの4コーナーで5馬身ちぎっているのだ。異常なのは私だけではない。
だから記憶が飛んであまり覚えていない。酸欠状態になりながらゴールするまでサニーブライアンとその酸欠状態を分かち合った。間違いなく私はサニーブライアンと走っていた。
私も苦しかった。特に坂のあたりでは意識が朦朧としていた。事実サニーブライアン自体も脚が上がり初めてきた。外からシルクライトニング、大外メジロブライトぉ~~~~~。
そのまま~~~~~~~~そのままそのままそのままそのままそのまま~~~~~~~~~~~。
私が気絶しそうになった時がゴールだった。苦しい戦いだった。私は間違いなくサニーブライアンと走った。その気迫が最後の坂を越えてからの粘りになったのは間違いなかった。
私は座り込んでしまった。
私は2着にシルクライトニングが入ったことをしばらく認識できなかった。
私の競馬人生の中で間違いなくこのエピソードを最初に挙げたい。
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